田代山は山形県の庄内地方と最上地方の郡境に位置し、弁慶山地の最南端にあたる標高627mの低山である。
夏道はなく、積雪期に雪を踏んで登るしか山頂に達する術がなく、長い間、登山の機会を伺っていた山だが、厳冬期にも関わらず比較的穏やかな天気が期待できるため急遽遠征した。

【 1/14 田代山(627m) 山形県・弁慶山地 】
松山温泉観音湯の先の除雪終了地点~林道白糸線最高点~標高480m平坦部~600m峰~田代山(往復)

弁慶山地は鳥海山以南、最上川以北の庄内地方と最上地方の郡境に跨る低山である。
最高峰は標高887mの弁慶山で、概ね標高600mから800mの峰々が連なっている。
しかし鳥海山と月山の雄峰の間にある藪山なので、登山者に顧みられることはなく、登山道がある山は経ヶ蔵山。胎蔵山、与蔵峠があるのみで、冬場に地元の岳人が登る以外は登山記録を見かけることはほとんどない。

今回登った田代山は鳥海山に通うアプローチの途上、何時も見上げて気になっていた山である。
その位置関係を簡単に説明すると、最上から庄内に抜ける国道47号線は最上川の隘路を抜けていくが、そこは最上川舟下りで有名な最上峡と呼ばれる。
舟下りの終点にあるのが白糸の滝で、最上川右岸の高みから何段にも落ちる勇壮な滝の姿は旅人の旅情を誘う。
実はこの滝の上の尾根を北西に約3km登ると田代山の頂に至るのである。
そのたおやかな山容は最上川と立谷沢川の合流点付近から眺めるのが一番と思える。

この山の登山適期は過去に山を観察した結果、1月から2月の厳冬期と思っていた。
3月中旬以降になると、南斜面の雪が斑模様になってかなり消えているのだ。
そして登山ルートとなる南西尾根までの取り付きは約3kmの林道歩きがあり、カンジキでのラッセルは厳しいと踏んでいた。
山に突入するとアカマツをミズナラが繁茂した藪尾根のため、山スキーで滑るのは難しく、しかも標高が低いので雪質は新雪が降った直後でないと腐れ雪になる可能性が高い。
そんな予想の下に今回はスノーシューで登る事に決めた。

当日朝6時に仙台を出発。
山形県に入ると村山葉山がモルゲンロートに赤く輝いている。
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路面に圧雪や凍結はなく、厳冬期なのに順調に最上峡を越えて庄内地方に入った。
清川から最上川を酒田市松山町の荒興屋へと清川橋で渡る、直ぐに右折して松山温泉観音湯へ舗装道路を登っていく。
温泉を過ぎて少し登ると除雪の最終地点であった。
ここに車を止めて林道白糸線を、南西尾根の取り付きに当たる林道最高地点まで歩く。
そこまでは東側の柏谷沢集落から歩いてもほとんど同じ距離なのだが、下山後に直ぐに温泉に入れるメリットは大きい。
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林道を東進するがこの冬になって誰も歩いていないようで、雪に歩いた跡は一切ない。
雪質は想像通り湿雪で、20~30cm潜るが、雪が重く足がスイスイ引き出せないので、一歩一歩踏みしめながら歩く効率の悪いラッセルとなる。

林道には地形図で確認すると3か所、左手に林道の支線が派生しているので、そっちの道に入らないように気を付けた。
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小さな沢を3か所渡る。
最上地方に比べて積雪量が少ない山域なので、小さな沢筋は雪で埋まっていない。
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林道はずっと杉の植林地の中を歩くため、展望が開ける場所は皆無。
単調な道なのでカーブミラーで自撮したりして暇つぶしする。
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キツネの足跡だろうか? 林道のかなりな距離に足跡がずっと続いていた。
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林道最高点(起点から3km)の少し手前にご覧の看板が設置されている。
ここから東に僅か歩いた左手が南西尾根の取り付きだ。
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最初は杉林の急登。
40cmほどのラッセルになり、体力を使うので、ジグザグに登っていった。
杉林が終わるところでホンドリスを見かけた。
慌てて写真に収めたが、マニュアルフォーカスで焦って撮ったのでピントが合っていない。
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尾根が細くなるところは低木藪が繁茂して歩き難い。
写真は少し尾根の幅が広がったところ。
鉈目や切り開きの跡が全然ないので、やはり登山道や作業道は存在していないようだ。
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小さな雪庇が現れると南東側の景色が広がった。
眼下を山形の母なる大河:最上川が流れていく。
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日本屈指のラバーダムと言われるさみだれ大堰も見える。
その構造は素人では分からないが、ラバーダムは空気の出し入れを利用して水位を調節するらしい。
堰の真下の地中に空気圧を調整する気閘室(きこうしつ)を設置し、そこから空気を給排気管を通じてゴム内部に給気・排気することでゴムを膨らませたり、萎ませたりする。農繁期の5月~9月は空気を膨らませ、農閑期の10月~4月にはゴムは萎ませると説明されても、ゴムの何処にそんな力があるのか不思議である。
この大堰は1995年に竣工したが、柏谷沢地区の住民は、竣工以前は道幅の狭い林道白糸線を利用していたと言うから驚きである。
林道が出来る更に昔は、最上川を渡し船で渡っていたと言われる。
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南西方面も少し見えていて、月山の清川行人小屋上部を水源とする立谷沢川が清川地区で最上川に合流する。
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羽黒山を有する黒っぽい丘陵地帯の奥に、鶴岡市の湯ノ沢岳と母狩山が見えていた。
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もう少し尾根を登って行くと更に展望が開けてくる。
山頂に鉄塔が建つ土湯山は、以前は最上川スキー場あり、その跡地をスキー利用で登れるらしい。
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南には月山前衛の虚空蔵岳が険しい山容で遠望できた。
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登っている尾根は夏道がない証拠に、ナラ枯れの被害木の立枯れに、あっちこっち乾燥したナメコが残っていた。
大分痛んでいるので採取対象にはならないが、キノコ好きな私は、生えているのを見つけると右往左往して近づいて観察してしまう。
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やがて地形図で450~500m付近に広がる平坦地に乗り上げた。
前日湿雪が積もったようで、腐った雪のラッセルが更に大変になる。
この平坦地は過去に伐採があったのだろうか?
ほとんど高木が見当たらず、すこぶる展望が良い。

南に肘折から立谷沢に至る未開の山域が見えている。
この山域は山形県において一番原始の気に満ちた山域と言え、登った記録は僅かである。
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南東側には左から順に村山葉山、高倉山、鳥形山、そして下柳沢山が同定できる。
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進行方向にやっと目指す田代山が姿を見せた。(右手奥のピーク)
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西には米どころ庄内平野の果てに荒倉山(左)と高館山が見えている。
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標高550m付近で西側から登ってきている杉林の中を抜けるが、その先からやっとブナの森が始まりほっとする。
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この乾燥ナメコはかなり状態が良い(笑)
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田代山の西峰とも言える600m峰に乗り上げる。
南側はカラマツが斑に植林されているが、北側の斜面はブナの原生林が広がっている。

600m峰からあまりアップダウンのない吊尾根を田代山に向かう。
この頃から青空が消えて天気が悪くなってしまった。
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吊尾根の左側は小さな雪庇が張り出していて、そこから冷水沢を挟んで大森山が大きく見えている。
この山にも夏道はないが、ある記録ではオサバグサが咲く山らしい。
標高は低くても原始の気に満ちた山である。
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山頂直下。ここまで来れば僅かな時間で山頂に立てる。
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背後を振り返ると上部を雲に隠した鳥海山が見えていた。
全貌が見えていれば凄い迫力であっただろう。
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田代山の山頂にはご覧の山名板がつけられていた。
三角点は雪の中で確認できない。
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山頂の周囲はブナの林に囲まれていて展望がない。
ここでは記念写真だけ撮って、先ほど大森山が見えた地点まで戻って昼食を摂った。
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カップ麺とおにぎりだけの簡単な食事を終え、登ってきた道を引き返す。

600m峰から南西尾根に下る地点は、自分のラッセル跡があるから道迷いはないが、大森山方面から縦走してきた場合は、ルートの確認にかなり手間取ると思う。
実際、そのポイントに小さな赤テープが連続で二か所付いていた。

平坦地まで戻って来ると、少しトレースを外して庄内平野が一望できる地点まで横に逸れた。
庄内平野をゆったり流れる最上川と酒田市街地、そして日本海の海岸線が一望であった。
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う~ん、ますます天気が悪くなってきた。
この日の天気予報では午後3時ごろから曇ってくるはずだったが、結局庄内地方は曇りベースの一日に終始したようだ。
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帰路、またまた乾燥キノコを発見。
これはムキタケかな?
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帰路はますます重くなってくる雪質にうんざりしながらも、登りより遥かに短時間に林道まで下れた。
真っ白い雪の上を歩き回るユキムシを見ながら林道を下る。
登りの時に気が付かなかった小林川の対岸のピークが望める。
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車に戻って、登山用具を片付けると、直ぐに観音湯へ車を走らせ、貸切の湯船に飛び込んだ。
日帰り入浴料380円ととてもリーズナブル。
それよりも下山して直ぐに汗を流せるのは最高であった。
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清川橋を渡り、国道47号線に出る。
そこからは登ってきた600m西峰が見えていた。
今まで何度もここを通行して、何時か登ってみたいと思っていたが、やっとその望みが適い充実した気分に浸った。
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GPS軌跡です。
tasiroyama


動画です。