昨年の3月後半は鳥海山の北西部にある前衛峰:稲倉岳に登ったので、今年は南西に位置する寄生火山の月山森を狙っていた。3月31日の土曜日は全国的に晴れの予報で雪山日和の天気が見込める。
今年は雪解けが早いので、今年最後のチャンスと思い、山仲間を誘って月山森を目指すことにした。

【 3╱31 月山森(1650m)山形・鳥海山 】
農林漁業体験実習館さんゆう~畑地~鈴木小屋~米沢頭~天主森~月山森(往復)

三ノ俣口からこの山を目指すのは2005年3月21日、光悦さんと登って以来久々の挑戦となる。
その時はミニスキーのスノートレックを用いて登ったが、カリカリのアイスバーン状態でシールがほとんど利かず、天主森まで登るのがやっとだった。従って天主森~月山森の区間は未踏となっていた。

月山森は湯ノ台コースの河原宿小屋跡から千畳ヶ原へ向かう道の途中に分岐がある。藪っぽい踏み跡を少し登れば山頂に着くが、三ノ俣からの登山道は鈴木小屋までしか行っていないようである。
積雪期限定の三ノ俣コースは累積標高差1340m、往復13.3km。稲倉岳より標高差はプラス100mあり決して楽なコースではない。

八幡町外れのコンビニの駐車場から見た鳥海山
月山森は右側の外輪山の左下に喰いこむ沢筋の頂点に位置する山だ。
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月光川ダムを過ぎて三ノ俣集落を通過し、右折すると農林漁業体験実習館さんゆうの駐車場に着く。
鳥海三神の水と呼ばれる豊富な湧き水が出ていて、水汲みに来ている人が沢山いた。
右奥に目指す月山森が見えている。
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今回ご一緒するのはmaronnさん、モンキィさん、tammyさん、うめさんすばるぅさんマスさんの6名。午前7時に現地集合だった。

施設の西側に上部まで繋がっている林道があるが、遠回りになるので、ロープトー1基だけの雪が解けた三ノ俣さんゆうスキー場のゲレンデ内を登っていく。
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一段登ると広大な面積を持つ畑地に出る。
先ず目につくのは端正な山容をした笙ヶ岳
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やがて正面に月山森と天主森も見えてくる。
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畑地を北端まで歩くと雑木林に入る。
ここから標高920m付近まで国有林を一部先行して伐採した後、計画がとん挫した三ノ俣スキー場の成れの果ての伐り開きを辿る。

平成2年、前川製作所を中心とする第三セクターによる「マウンテン鳥海スキーパレス構想」が策定され、標高300mから1200mまでの62ヘクタールの区域にゴンドラ1基、ペアリフト4基を有するスキー場として開発る予定であった。その前段として天主森(1404m)までスキー経を拡大する既成事実を作るべく、標高400mから920mまでのブナ林を遊佐町が先行して伐採したらしい。その後、いろいろ紆余曲折があり、隣の八幡町とコクド(旧国土計画)が絡む大規模スキー場&ゴルフ場計画が、地元の「鳥海山の自然を守る会(故池田昭二会長)」の反対活動によって頓挫した経緯もあり、平成9年に遊佐町はスキー場計画を断念した。

今回調べて見て自分の中ではコクドのスキー場計画と、三ノ俣スキー場構想をごっちゃに考えていたのが判明。バブル経済末期の同時期に平行して鳥海山南面に二つの大規模スキー場開発計画が持ち上がっていたとは今回初めて分かった。
しかしバブル崩壊後に経営が行き詰ってしまったスキー場は数多く、今になってみればスキー場を建設しなくて良かったと地元の方々は感じているのではなかろうか。

伐り開きの下部は木々が伸びて密林状態になっている。
枝を避けながらルートファインディングし難いルートをたどっていく。
(途中、林業用のブル道にルートが切断されていて、その場所が迷い易く感じた。)
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標高620m付近からブナ林に入る。
株立ちの木が多い、変わったブナの森が広がっていた。
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やがて麓からも見える、スキーゲレンデの様なブナの伐り開きに出る。
右上に見える標高950m付近までスキー場用に伐採された斜面が伸びている。
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この伐り開きの途中、左手のブナ林との境に鈴木小屋が建っている。
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この小屋、鳥海山が国定公園になる前(1963年以前)に建てられたらしい。
その利用目的は分からないが、取り壊すと二度と建築ができないため、何度も改修されているのであろう。
2階の窓を開けて中を覗いてみた。2005年に来た時よりかなり痛みが増している感じがした。
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伐り開きの上部まで登ると、眼下に庄内平野と日本海の海岸線が望めた。
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藤倉川の右岸尾根に乗り上げる。
ここでアイゼンを装着。

ブナの森を進むが、標高差150mも登ると森林限界に達してしまう。
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米沢頭のピークは所在が分からないまま通り過ぎてしまう。
西側に落ちる浅い沢筋が米沢なので、森林限界付近を称するようである。

右に月山森から流れ落ちる藤倉川が切れ込んでいる。
何やら湯殿山の登りから見た姥ヶ岳のようにも見えるが規模は小さい。
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日差しが眩しいオープンバーンを天主森目指して登っていく。
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振り返ると遠く月山が霞んで見えている。
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真っ白い雪原で、藤倉川右岸の斜面の傾斜が良く把握できないため、安全を期していったん天主森の山頂に登り、尾根伝いに月山森を目指すことにした。

天主森山頂直下の急登。
白と青の世界が広がる。
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天主森の三角点は雪に埋まっている。
1404mの三角点標高(点名は天正森)であるが、三角点は頂稜の南端にあり、地形図上では1410mの標高を持つピークだ。

山頂からはそれまで見えていなかった千畳ヶ原と笙ヶ岳方面が一望できる。
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尾根の西側はブッシュが出ているので、東側の豊富な雪をつないで月山森に向かう。
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天主森を眼下に高度感溢れる尾根を登っていく。
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標高が上がると、平野部の靄の上に突き抜けた月山と朝日連峰がくっきりと見えるようになってきた。
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ニセピークを越えたところで漸く月山森が姿を現した。
山頂付近はハイマツが現れている。
左奥に外輪山が真っ白く輝いていた。
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最後は残雪をひろいながらハイマツ帯を登る
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月山森山頂に到着。
国定公園内の特別保護区に入っているこの山頂までスノーモービルが進入しているのは嫌な感じがした。
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ランチで腰を下ろす前に、一通り四周に広がる360度の大展望の写真を撮る。

真っ先に目が行くのは眼前に聳える外輪山
見えているのは右から行者岳、伏拝岳、文珠岳で、新山や七高山はこの山頂からは見えない。
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東方は栗駒山と、手前に丁山地。
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山頂まで登ってきて、やっと神室連峰の霞が取れた。
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南東部、眼下に広がる出羽丘陵(弁慶山地)。
その中核をなす弁慶山(中央台形の山)と、左の三角形の八森。
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船形連峰から右に視線を移すと、蔵王連峰(左奥)と葉山も見えている。
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吾妻連峰も同定でき、その右には月山が一番目だっていた。
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朝日連峰の以東岳(左)の右側に白い山並みが確認できるが、それは飯豊連峰
良く見ると飯豊本山、御西岳、大日岳、烏帽子岳、北股岳、扇ノ地紙までの主稜線が分かる。
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山頂北西端の岩場まで少し下ると、日本海の海岸線が見えている。
砂浜に打ち寄せる白波が高かったようだ。
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そして千畳ヶ原を取り囲む様に聳える笙ヶ岳、御浜、扇子森の山々。
この地形を見ると、千畳ヶ原を火口原として、取り巻く山々が外輪山である様子が分かった。
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雪庇が張り出す笙ヶ岳のアップ
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写真では分からないが、この時、鍋森直下を登っている単独の登山者がいた。
しかし良く目を凝らすと千畳ヶ原を越えて鳥海湖方面に駆け上がっているスノーモービルのトラックベルト跡が見えた。

日本スノーモービル安全普及協会では国立公園、国定公園内の特別保護区域内にはスノーモービルの乗り入れを自粛して欲しいという自主規制を設けている。
また特別保護区域では下記の内容を法律で禁止している。
1. 工作物の新知己、改築、増築。 2. 木竹の伐採 3. 鉱物の採取、土石の採取水 4. 河川、湖沼の水量の増減 5. 広告物の設置、表示 6. 水面の埋め立て、干拓 7. 土地の開墾、干拓 8. 工作物の色彩の変更 9. 木竹の損傷 10. 木竹の植栽 11. 家畜の放牧 12. 野外での物の集積、貯蔵 13. 火入れ、焚き火 14. 植物採取、損傷、落葉、落ち枝の採取 15. 動物の捕獲、殺傷、動物の卵の採取、損傷 16. 道路、広場以外での車馬、動力船の使用、航空機の着陸 17. 木竹以外の植物の植栽、植物の種子を蒔くこと。 18. 動物を放つこと。

その罰則は「自然環境保全地域内(特別保護区域)」に許可無くスノーモビルなどを乗り入れると,自然公園法,自然環境保全法により,6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課せられる。
しかし現行犯逮捕が基本なので、この罰則は有名無実なザル法と言わざるを得ない。

今回もよく観察するとトラックベルトでハイマツを無残に踏みつけた跡もあり、イヌワシの生息区域内でもあるので、早急に特別保護区域内への立ち入りを禁止する何等かの具体的な条例策定が必要ではないかと感じる。環境アセスメントでイヌワシの生息が確認され開発中止になった八幡町のスキー場計画が駄目で、騒音と排気ガスを山中にまき散らしながら走行するスノーモービルがイヌワシの生育に影響を及ぼさないとは矛盾している。

山頂で外輪山を見上げながら食事をし、最後にマスさんお手製の和菓子『日の出』をいただく。
甘酸っぱくて美味しい和菓子だった。
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風が弱く快適な山頂でのひと時が終わり、外輪山を再び写真に収めてから往路を戻る。
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帰路は天主森へ立ち寄らず、オープンバーンを直線的に下った。
登りと違い月山と庄内平野を見ながら快適に歩を進める。
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天主森には山スキーヤーのシュプール2本が刻まれていた。
重力に任せてサクサク下る。
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午後から曇ってくる予報だったが、空はより青さを増した感じがする。
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藤倉川をより望める場所に立ちより雪渓の上部を撮影。
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森林限界下部のブナ林に入ると雪が腐ってアイゼン歩行が難しくなる。
平坦な場所でカンジキに履き替えた。

ブナの伐り開きの斜面では尻セードを楽しむメンバーもいた。
休むことなく下り、畑地につくとマンサクの花が咲いていた。
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雪をひろいながら広大な畑地を歩く。
振り返ると登ってきた月山森が朝よりもくっきりと見えていた。
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帰路、旧八幡町のゆりんこで入浴し、少し遠回りだが酒田港の海鮮どん屋とびしまへ行って海鮮丼を食べた。訪れる度に海鮮丼のネタが違うのが良い。
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maronnさんからノドグロの刺身をご馳走になった。
今まで焼いたものしか食べたことがないノドグロ。
凄く美味しい刺身だった。今の時期の日本海だからこそ食べられる一品である。
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夕日に輝く月山を遠望しながら庄内の地を後にする。
鳥海山は寄生火山に登っても迫力ある光景が展開し、やはり東北有数の名山であると強く感じた。

GPS軌跡です。
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動画です。