鳥海山を至近距離で見られる伐透山(通称・キスカス)へ行ってきた。
9年前に登った時、鳥海山は中腹より上が雲に隠れて見えなかったため、今回は再チャレンジとなった。

【 3/11 伐透山(764m) 山形・弁慶山地 】
升田スキー場跡地手前の路肩~熊沢林道分岐~南西尾根340m地点~490m地点~伐透山(往復)

1976年発行の故池田昭二さんが調査・執筆を行われた昭文社・山と高原地図「鳥海山」には、今は廃道となった数多くの登山道がそこには記載されていて、特に弁慶山地の山々が網羅されている点で非常に価値が高い。注連石や鬼ノカケハシの存在はこの地図で知った。
その中で日向川右岸の升田地区の奥にある、キスカスという奇妙なカタカナの山名が異色だった。
熊沢川の出合から破線ルートのコースタイムが1時間20分となっている。山頂から大八重川の金沢ノ平までコースタイム1時間の破線ルートが更に伸びている。その頃から山名を見て登ってみたい山だった。

本当の山名は伐透山(きりすかしやま)と言う。東北地方では「し」の発音を訛って「す」と言う場合が多い。そのため「きりすかすやま」、山を省略して「キスカス」と呼ばれたのでは?と私なりに想像している。

升田地区付近まで来ると、ようやく伐透山の姿が見えてくる。
何の変哲もない低山といった趣だ。
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ロープトゥ1基だけあった升田スキー場は閉鎖され、現在は伐採の貯木場になっている。
林道入口の広い路肩に車を停めて歩きだす。
奥山林道は重機のキャタピラ跡で泥だらけのため、帰宅してからの靴の手入れが大変そうだ。
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日向川の奥に鳥海山が姿を現す。
山形県内に入るとずっと曇っていたので、鳥海山が見えるか心配していたが杞憂だった。
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熊沢川にかかる橋を渡ると、すぐ右に熊沢林道が派生する。
杉の伐採地はこの奥にある模様で、ドロドロのキャタピラ跡をたどる。
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林道の法面の雪はほとんど消えていて、木を掴んでやっと法面の上に出た。
帰りは法面を滑り落ちてしまいそうなので、別ルートから林道へ降りねばならない。

杉の植林地を堅雪を踏んで登り、伐透山南西尾根、標高340m地点に乗り上げた。
ここでカンジキを履く。
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今年は2月中旬以降、降雪が少なかったようで、例年より雪解けは早い。
尾根上の雪は消えてしまった場所もあり、進行方向右手斜面の雪をひろいながら登る。

やがてこの山一番の難所である、標高490m地点下部の急坂に出る。
中途半端に雪がついていて、かつ雪面が固いため、私は左手の雪が消えた場所を登った。
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490m地点から平な尾根を進み、右奥に見える528m峰の左下をトラバースして行く。
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最短距離で進むべく、支尾根に取り付く。
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厳冬期には雪庇になる場所は、雪庇が無くなり、少し急な斜面に変わっていた。
そこを登ると雪庇に沿って登るようになる。
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しかし雪庇は随所にクラックが入っていて、左手のヤブに逃げる事が度々あった。
振り返ると三角形の薬師森が望めた。
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標高600m付近から木肌が白いブナの森に変わる。
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標高680m付近。
尾根の幅が広がり、一番気持ちが落ち着ける場所だ。
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オオカメノキの新芽が伸びてきている。
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尾根がS字状に曲がると、奥にようやく山頂部が見えてきた。
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雪庇の上から南方を望む。
正面の平頂は庇森と思う。
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山頂直下。
以前登った時は雪に隠れて分からなかったが、かつて道があった痕跡が随所に見られた。
同時に雪解け跡にはイワウチワが沢山生えていて、膨らんでいる蕾もあった。
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灌木帯に入って雪原を緩く登っていくと、鳥海山の姿がどんどん競りあがってくる。
右手の木が一本生えている場所が伐透山山頂だ。
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西を望むと、日本海の海岸線が霞んで見えている。
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山頂から眺めた鳥海山。
上空は風が強いみたいで、雲が早いスピードで流れている。
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今いる山頂付近は曇っているが、鳥海山にスポットライトが当たる感じで、流れる雲がより陰影を引き立てている。
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しかしこの山からは新山は見えない。
伏拝岳と行者岳の外輪山が主役だ。至近距離から見るこの迫力は登った人しか体感できないだろう。
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滝ノ小屋と八丁坂もはっきり同定できる。
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滝ノ小屋下部のブナ林の造形が面白い。
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冷たい風が吹き抜けている山頂では休憩できないので、少し東側の雪庇の上に移動してお昼休みをとった。真東に二ツ山と、その奥に丁岳、有沢山(右)が見えている。
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北東には兜山(左)、鞍(右)、納屋森(鞍の左奥)が確認できる。
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南東には峰続きの806m峰と、その右奥に小鳥海が顔を出している。
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今回もマスさんがお菓子を持たせてくれたが、寒くて身体が冷えてしまったため、山頂から下った風のない場所でもう一度休憩をとることとして山頂を後にした。
鳥海山の姿が名残惜しく、また山頂に少し留まってその姿を目に焼き付けた。
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S字状に尾根が曲がる雪庇のところまで下ると、風もなく、日差しが差し込んできた。
ここで霞む月山を眺めながら休憩を取る。
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よく観察すると注連石が見えている。
右手前の尾根のの奥に、辛うじて白い点に見えているところが、注連石の岩峰だ。
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コーヒーを入れてマスさんお手製のお菓子「焼きしょこら」を食べる。
チョコレート味の中にナッツとベリーが隠し味に入っていて美味しい。
2021031133焼きしょこら

後は一気に下るのみ。
528m峰トラバース付近まで下ってくると、雪が大分緩くなってきた。
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一番懸念した490m地点下部の急坂は、踵キックステップが良く効き簡単に下れて安心した。
林道へ降りる法面を嫌って、熊沢林道分岐のすぐ北側にある309mピークに登り返す。
しかしこのチョイスは失敗。
309m峰はヤセ尾根で、雪が完全に消えて藪漕ぎになってしまった。
そのピークの上から下ってきた尾根を見上げる。伐採作業が行われている場所が良く見えた。
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熊沢林道の分岐付近に出て、そこでカンジキを脱ぐ。
後は泥でぐちゃぐちゃになっている奥山林道を歩く。
途中振り返ると、鳥海山が快晴の空の下で真っ白に輝いていた。
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駐車地点の横に農業用水の堀が流れていて、そこで汚れたカンジキと登山靴を軽く洗う。
冬用のパンツは帰宅してから泥を落とさねばならない。

結構早く下山できたので、升田地区にある玉簾ノ滝を見に行く。
雪解け水で水量が多く見栄えがする。
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滝つぼ近くまで行くと、水しぶきが飛んできて服を濡らした。
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帰路、眺海の森へ立ち寄り、別な角度から鳥海山を眺めてみた。
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帰り道は鍋越峠を通って県境を越える。
念願かなって伐透山から鳥海山を眺める事ができ、満ち足りた気持ちになって家路についた。

雪解けが急激に進んでいる現状を見ると、今年、雪を踏んで伐透山へ登ることができる最後のチャンスだったかもしれない。

GPS軌跡。
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