渓谷遊歩道に群生するアズマシロカネソウを見たくて温海岳に行ってきた。
想像以上に咲き誇っていて驚いた。

【 4/21 温海岳(736m) 山形・摩耶山地 】
温海岳登山口~古和清水~渓谷遊歩道入口~二ノ滝~三ノ滝~NTT管理道路~橅の森遊歩道入口~嗽場の清水~日本海展望地~温海岳~一本杉~大杉~旧拝殿跡~平清水登山口~温海岳登山口

あつみ温泉の北東に聳える温海岳は、松尾芭蕉が「あつみ山や吹浦かけて夕涼み」と詠み、古くから知られていた名山だ。平安時代初期に開山された信仰の山で、山頂には蔵王神社本殿が建っている。

写真はあつみ温泉から見た温海岳。
午前中は曇りの予報なので、午前9時40分ごろ現地に着いた。
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今回はあつみ温泉から周回するルートで登る予定のため、月見橋北側の温海岳登山口付近に駐車場を探したが見当たらない。温泉街一帯をぐるぐる回ってみたが、結局観光客専用の駐車場は見つからず、現在山のSNSの記録で紹介されている旧温海グランドホテルの北側に車を停めた。しかしそこには「私有地につき無断駐車禁止」の看板がある。近隣の住民の方はその場所に駐車すれば良いと指示しているようだが・・・
(帰宅後に駐車場を検索したら、登山口から西へ900mほど戻った温海温泉林業センターの駐車場が使えるようだ。)

駐車場探しをしていたため、午前10時に温海岳登山口をスタート。
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水道施設の前を過ぎると簡易舗装されたNTT管理道路を登るようになる。
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S字カーブのところから温海岳の中腹を見上げる。
ちょうど春紅葉が始まったばかりだ。
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庄内名水30選の古和清水。
清らかな湧き水が凄い水量で流れだしている。
10年前はここを起点に周回したが、旧拝殿跡から古和清水へのトラバース路の足場が非常に細く、怖い目にあったので、雑誌等での紹介はできないルートと感じた。
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古和清水から少し登ると落差6mの一ノ滝を見る。
右岸にNTT管理道路の擁壁が連なっているため、見栄えはあまり良くない滝だ。
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管理道路沿いの岩場にはイワハタザオの花がたくさん咲いていた。
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渓流遊歩道入口に着く。
仙台から花の散策にいらしたご夫婦が先行する。
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早速お目当てのアズマシロカネソウが登場。
キンポウゲ科シロカネソウ属の日本固有の多年草で、本州の秋田県・岩手県から鳥取県・岡山県にかけての日本海側に偏った地域に分布する花だ。
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そんなに多くないが、ワサビが生えていた。
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こんなにアズマシロカネソウが咲いているとは思ってもいなかった。
草丈が低く、花も小さいので撮影に苦労する。
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春に生えるキノコ:シロキツネノサカズキモドキは赤いので結構目立つ。
斜めから撮影すると小さなワイングラスの様に見える。(不食)
ちょっと触ると胞子が煙のように舞った。
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右岸から小さな滝が流入する。
ここから先、何度も苔むした木橋を渡り返しながら上流へ進む。
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小さな群生地が何度も現れるアズマシロガネソウ
花弁状のものは萼片で、花弁は内側の黄色の部分らしい。
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落差8mの二ノ滝が右手に見えてきた。
沢を左岸に渡ると近づけるが、水量が多い雪解け期は長靴を履かないと無理だった。
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随所に咲くユキツバキ
この木も日本海側に分布している。
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渓流遊歩道の見どころの一つがココ。
奥に見える本流の滝と、右岸から流れ込む滝が同時に眺められる。
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右岸から落ちる滝を見上げる。
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鉄製の階段を登ると渓相が穏やかになる。
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ナガハシスミレが咲いている。
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左岸から流入する沢の奥にある鶴見の滝
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白花のスミレサイシン
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オトメエンゴサク。
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前夜に降った雨の影響で、キクザキイチリンソウはずっと花が閉じていたが、陽の光が差し込むとようやく花が開き始めた、
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またまたアズマシロカネソウがたくさん見られるようになった。
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コシノコバイモは特徴ある葉っぱから生えているのは分かったがまだ蕾ばかり。
葉桜になった頃が見ごろかもしれない。

この橋を渡ると、沢の右岸の高みを歩くようになる。
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左岸壁の高いところから落ち込む無名の滝が見えた。
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そして渓流遊歩道で最も規模が大きく優美な三ノ滝に着く。
落差30mの標識が立っているが、実際に見るともっと落差があるように感じる。
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三ノ滝から先は沢を離れ、急坂の登りがNTT管理道路まで続く。
芽吹いたばかりのブナの大木が現れる。
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タチツボスミレ。
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晴れてきてようやくコミヤマカタバミの花が開いた。
左手の花に蜂がホバリングして蜜を吸っている。
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春の妖精・ギフチョウ
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NTT管理道路に出て休憩を取る。
東北自然歩道の看板に「小菅野代方面へ抜ける遊歩道は草木が生い茂っていて、通行に支障をきたしております」との表示がされていた。
それより意味不明なのは「温海嶽、温海温泉へは林道八方峰線をご利用ください。」との文言。
この看板の位置から林道八方峰線を利用して温海岳には行きようがない。本来、小菅野代の林道入口に表示すべき内容をこの場所に掲示するのは、登山者に混乱を招くだけと思う。

NTT管理道路を約50mぐらい東に歩くと、右手に橅の森遊歩道入口がある。
昔は山頂に向かう道が管理道路しか無かったが、現在は車道を歩かなくても良くなった。
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しかしこの橅の森遊歩道はしばらく刈り払いが行われていないようで、道にササが被って薮化が進んでいる。薮道に慣れている人はまったく問題ないが、整備された登山道しか歩いた事がない登山者は道を外してしまう恐れがある。

でも道沿いにイワウチワの花が咲き、車道を歩くより気分的に楽だ。
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橅の森遊歩道の途中にある嗽場の清水
ここは山頂の熊野神社本殿に礼拝する時の垢離取場であったようだ。
ザックを下ろして美味しい湧き水を堪能する。
気温も高くなり、今年初めて半袖Tシャツ1枚になった。
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橅の森遊歩道は白い木肌のブナの二次林が続く。
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ブナの芽吹き。
今年は花が咲かないようだ。またブナの実の不作年になるのであろうか。
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3年前に歩いた時は残雪が多く、途中から遊歩道を辿れなくなり、雪に覆われたNTT管理道路に逃げてしまったが、今年はほとんど雪が解けて歩きやすかった。
しかし一部雪が残っているところは雪が柔く、ズボズボ踏み抜くため、短い距離でも苦労してしまった。

そして日本海の展望地に着く。
水平線の左側に薄く粟島が見えている。
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日本海の展望地から見た温海岳山頂。
管理道路が右にカーブした地点から橅の森遊歩道が再び分岐する。
取りつきの部分から少しの間、雪の斜面を登ったが、中間部からは夏道が出ていた。
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山頂の一角に建つ熊野神社本殿に着く。
扉を開けて参拝した。
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山頂の三角点周辺に咲くキクザキイチリンソウ
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新たにベンチとテーブルが設置された温海岳山頂。
二等三角点がある。
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午後から一気に晴れたので鳥海山が見られるか、と期待したが、まったく見えなかった。
風力発電の風車が建つのが八森山。その右手が荒倉山と高館山、一番右の高い山が藤倉山。
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山頂付近に雲がかかる月山と、左に湯ノ沢岳を眺めながら、ベンチに腰掛けて遅い昼食をとる。
摩耶山や以東岳は植林したスギの木が伸びてほとんど見えなくなった。
湯ノ沢岳から母狩山までの稜線は見えたが、金峯山もスギの木が伸びて見えなくなった。
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全然寒くない山頂で30分ぐらい休憩した後、旧拝殿コースを下る。
出だしのスギの植林地は湿った粘土質の土が非常に滑って、転ばないよう注意して下った。

やがてスギ林が終わるとブナの森に入る。
橅の森遊歩道の二次林に比べ、このコース沿いのブナは原生林が残っている。
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急な下りがずっと続くため、速足で下れない。
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標高差で200m以上下ると、芽吹き始めたブナ林に変わった。
一年で一番美しいと感じる光景だ。
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下りの急坂にたった一本だけ生えている、その名も一本杉。凄く太い。
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一本杉の下部にあるブナの奇形樹
かなりな巨木で存在感が半端じゃない。
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登山道は尾根を直降せず、尾根の右斜面へジグザグに下るようになる。
このミズナラの巨木、どういう風に成長するとこんな格好になるのか不思議だった。
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一部ロープが設置された足場の悪い場所を過ぎると、登山道は一気に右へ折れて、斜面を斜めに下って行く。岩塊が露出していて歩きにくい。

途中、往路では開花していなかったコシノコバイモの花がぽつぽつと現れた。
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思わず足を止めて見入ってしまう。
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そして旧拝殿コースの見どころの一つ大杉(婆杉)が現れる。
背後に植林されたスギの木を見ると、この大杉の巨大さが理解できる。
幹回り5.9m、樹高25m、推定樹齢800年の堂々とした姿に感動した。
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大杉からスギ林を少し下ると旧拝殿跡に着く。
ここから北へ古和清水へ向かう道が分かれる。
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旧拝殿跡から一段下がった場所にある平清水
冷たい湧き水が乾いた喉を潤してくれた。
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平清水かた平清水登山口までの行程は概ねスギの植林地内を下る。
下部で廃屋の横を通り抜けると、車道の擁壁の真上に出る。
そこから登山口まで僅かな距離だった。
過去の登山記録を見ると、登山口の上に黄色いオドリコソウが咲くらしいが、この日は開花していなかった。
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車道を月見橋まで西進すると、右手に大清水が湧き出している。
飲用は自己責任と記載されていたので飲まなかった。
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月見橋から温海岳を見上げる。
ただし山頂直下はスギが植林されていたので、この位置からは本来の山頂は見えないようだ。
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温海岳は「やまがた百名山」の一座であるが、現在発行している山と溪谷社の「分県登山ガイド 山形県の山」には掲載されていないため、人気の山とは言いがたい側面を持っている。
単にNTT管理道路がほぼ山頂まで登っている、という観点から外された山と思うが、実際に周回ルートを歩いてみると、花が多く見どころ満載の山という印象を持った。
ただし春の花の時期は残雪があり、難易度は結構高い。累積標高差も920mとなかなかハードな山だ。
山のベテランの先導で登って欲しいと思う。

GPS軌跡。
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